東日本大震災の発生から本日、10年を迎える。2011年3月11日に三陸沖でマグニチュード9.0の大規模な地震が発生。津波が押し寄せた沿岸地域を中心に壊滅的な打撃を受けるとともに、原発事故による放射能汚染問題も発生した未曾有の大災害となった。10年が経過し、施設などはほぼ100%復旧しているが、いまだ大きな爪あとを残しているのが、原発事故による風評被害だ。消費者庁がこのほど発表した消費者意識調査によると、放射性物質を理由に購入をためらう産地として福島県と回答した人は全体の8.1%となり、減少傾向にあるが、依然存在する。こうした意識も受けてか、福島県産和牛の枝肉価格はいまなお全国平均より8.5%安の低い水準が続く。
農水省によると、震災における農林水産関係の被害は計2兆4,426億円で、阪神・淡路大震災の約26倍、新潟県中越地震の約18倍。畜産関係も畜舎などの施設のほか、家畜等が被災した。沿岸の食肉小売店も、津波により店舗が全壊・流出、浸水するなどし、甚大な被害に見舞われた。いまだ解決されない大きな課題の一つが、原発事故による福島県産農林水産物・食品に対する風評被害の問題だ。消費者庁がことし1月に行った風評被害に関する消費者意識の実態調査結果によると、放射性物質を理由に福島県産の購入をためらう人がいまだ8.1%、「被災地を中心とした東北」の購入をためらう人も6.1%いる状況。福島県産・東北産とも購入をためらう人の割合は減少傾向、いずれもこれまでで最小となり、改善はみられているものの、ゼロにはならず、いまだ放射性物質を理由に買い控えが起きている状況がうかがえる。
農水省がまとめている東京市場における牛枝肉卸売価格(和牛去勢全規格平均)の推移によると、ことし1月の福島県産の平均価格はキロ2,328円で、全国平均の2,545円に比べ8.5%(217円)安。震災当初、消費の減退や暫定規制値を超える放射性物質検出の影響から、出荷制限4県(岩手県、宮城県、福島県、栃木県)を中心に価格が低下、11年度後半からは回復傾向で推移し、13年度以降は震災以前の価格を上回っているが、福島県産については、なお全国平均より低い水準。福島県産和牛の価格は、震災前は全国平均とほぼ同額だったが、震災直後に大きく下がり全国平均との差が拡大したあと、縮まる動きがみられたものの、近年価格差は定着している。全国平均をいまだ1割弱下回っており、震災前の水準には回復していない。
風評被害は牛肉のみならず豚肉でも続き、それらは福島県の失われた生産基盤の回復も遅らせている。直近のデータから農水省の19年畜産統計をみると、福島県の肥育豚飼養頭数は9万7,200頭(前年比0.1%増)で減少した前年とほぼ変わらず、回復は足踏み状態。震災前(09年)の16万2,800頭に比べ4割の大幅減となっている。また、肥育用牛飼養頭数(2020年畜産統計)も、前年に減少した反動で1万7,900頭(11.9%増)と伸びたが、震災前に比べ大幅に少ない。牛・豚ともに震災から10年近くが経っても回復にはほど遠い状況が続いている。
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